デザイナーが語る、構想7年のGジャン
産デニムメーカー「FULLCOUNT」で活動していた、WASEWデザイナー河南宏則。そんな河南がWASEWで初のデニムセットアップを発表したのは、構想から7年経った2022年のこと。デニムと向き合うたびに、こだわりの沼にハマってしまい進めない日々。そこには、デニムを知るからこその葛藤がありました。デザイナーとしてではなく、一人のデニムフリークとして作り上げた、WASEW初のGジャン、"LOT0336 DENIM 1st JUMPER” について、デザイナー河南宏則が語ります。
ヴィンテージから学ぶ新たなデザイン
【以下:河南】
Gジャンを作る上で、昔から感じていたことがあります。それは、ヴィンテージの中でもLeeやWrangler、ストアブランドなどから多様なGジャンが生み出されている中で、"1st TYPE" や "2nd TYPE" といった定型にとらわれず、もっと自由な発想で作りたいという思いです。
特に、Lee101を参考にしたデニムを作ると決めたときから、その思いはさらに強くなり、「Gジャンとは何か」を深く考えるようになりました。
私は、デニムで作ったショートジャケットがすべてGジャンだとは思っていません。そこで、Gジャンを構成する要素とは何なのか、自分なりに答えを見つけ、ヴィンテージのワークジャケットをベースに、シルエットやディテールなど、Gジャンらしさを追求して構築しました。
ザ・ジャパニーズ・インディゴブルー
イメージしているインディゴブルーを探すため、岡山の井原、児島へなんども足を運びました。生地というよりは、糸、染め、織り、を探すためです。色落ちはデニムを穿き続けて出てくるものですが、その良し悪しは、糸、染め、織り、で決まります。もはや説明は入りませんが、岡山はインディゴ染の名産地であり、その染色技術は世界中が知っています。WASEWの左綾デニムには、本物のジャパニーズ・インディゴブルーが必要でした。
縦糸は、ピマコットンをメインに米綿をブレンドした、ナチュラルなロングスラブを再現して紡績しました。
通常、染色という工程は短時間で濃い色を出すため、高温で染色を行いますが、インディゴ染めは常温で染めるため、濃い色を出すために染め回数を増やさないといけません。染めた糸を空気に触れさせてインディゴブルーに変色させるという工程を10回ほど繰り返すことで、ようやくWASEWが求めるインディゴブルーが出来上がるのです。
ヴィンテージ織機が生み出す、豊かな表情
デニム生地は3/1綾で織られ、縦糸(インディゴ)が表側に現れる仕組みです。織機に糸をセットする際、縦糸のテンションをできる限り緩くし、低速回転で丁寧に織り上げています。この方法は職人の高度な技術を要し、通常より時間がかかり非効率ですが、生地に独特のザラ感と豊かな表情をもたらします。
仕上げでは余計な工程を省き、織り上がった生地は洗い加工のみで防縮処理を行っています。これにより、生地への負担が減り、コットン本来の柔らかさや油分が残るため、肌に触れたときの柔らかさや履き心地が非常に良くなります。
また、左綾で織ることで、きれいな綾目が立ち、少し上品な印象が加わります。濃いインディゴブルーの糸やザラ感のある生地の表情が、個性を持ちながらも王道でスタンダードな印象を与えるWASEWオリジナルデニム生地が完成しました。
細部に宿る、WASEWのこだわりと職人技
フロントヨークに挟み込まれたフラップとホームベース型のポケットがこのGジャンの特徴です。ヨークの切り替え位置を少し深くし、ポケットをやや大きくすることで、ワーク感を持たせながらも、しっかりとGジャンとして成り立つようにデザインしています。
フロントデザインは、プリーツを入れずに極力シンプルに仕上げました。そのため、5PKと同じブラス色のドーナツボタンがアクセントとなり、シンプルながらも力強い印象を与えています。
Gジャンとして成立させつつ、シンプルさを徹底的に追求したいという思いから、Tバック(後ろ身頃の切り替え)は採用せず、後ろ裾にあるタックもネイビーステッチで控えめに仕上げました。袖には1枚袖を使用し、袖口の開き部分はUFOリベットで補強しています。
ステッチ糸は2色に抑えていますが、糸番手や運針数を各所で細かく設定することで、奥行きと立体感のあるGジャンに仕上げています。
デニムを作ることの意味
革新的なモノでも、特別なモノでもなく、デニムに関わってきた一人として、好きな気持ちを具現化する。結局、7年間突き詰めたものは、自身の「デニム愛」でした。そんなデニムフリークが作ったデニムを、デニムフリークたちに着用してもらう。そんな想いが、WASEWデニムのゴールなのかもしれません。
"THE DENIM"
WASEWのデニム生地ができるまで