デザイナーが語る、構想7年のデニムジーンズ
国産デニムメーカー「FULLCOUNT」で活動していた、WASEWデザイナー河南宏則。そんな河南がWASEWで初のデニムセットアップを発表したのは、構想から7年経った2022年のこと。デニムと向き合うたびに、こだわりの沼にハマってしまい進めない日々。そこには、デニムを知るからこその葛藤がありました。デザイナーとしてではなく、一人のデニムフリークとして作り上げた、WASEW初のジーンズ、"Lot 0110 TYPE STRAIGHT" について、デザイナー河南宏則が語ります。
ヴィンテージから学ぶ、温故知新な左綾デニム
【以下:河南】
私自身が所有している、1944年の Lee101B を参考に、WASEWオリジナルの左綾デニムを作るということからプロジェクトはスタートしました。結果として、7年の歳月はかかりましたが、自分の思うデニムがどうやったら作れるかを、色々な方々の知恵をお借りして作り上げることができたと思っています。
私が、初めて意識して履いたデニムが Lee101B でした。その印象が私のデニム観に大きな影響を与えました。今でもたまに履きますが、やっぱりいいと思わせてくれる私のルーツ的なアイテムですね。
その Lee101B をベースに、時代に合わない部分や、もっとこうであったらという部分を考えながら作成しましたが、その一部始終をお話しできればと思います。
ザ・ジャパニーズ・インディゴブルー
イメージしているインディゴブルーを探すため、岡山の井原、児島へなんども足を運びました。生地というよりは、糸、染め、織り、を探すためです。色落ちはデニムを穿き続けて出てくるものですが、その良し悪しは、糸、染め、織り、で決まります。もはや説明は不要ですが、岡山はインディゴ染の名産地であり、その染色技術は世界中が知っています。WASEWの左綾デニムには、本物のジャパニーズ・インディゴブルーが必要でした。
縦糸は、ピマコットンをメインに米綿をブレンドした、ナチュラルなロングスラブを再現して紡績しました。
通常、染色という工程は短時間で濃い色を出すため、高温で染色を行いますが、インディゴ染めは常温で染めるため、濃い色を出すために染め回数を増やさないといけません。染めた糸を空気に触れさせてインディゴブルーに変色させるという工程を10回ほど繰り返すことで、ようやくWASEWが求めるインディゴブルーが出来上がります。
ヴィンテージ織機が生み出す、豊かな表情
デニム生地は3/1綾で織られ、縦糸(インディゴ)が表側に現れる仕組みです。織機に糸をセットする際、縦糸のテンションをできる限り緩くし、低速回転で丁寧に織り上げています。この方法は職人の高度な技術を要し、通常より時間がかかり非効率ですが、生地に独特のザラ感と豊かな表情をもたらします。
仕上げでは余計な工程を省き、織り上がった生地は洗い加工のみで防縮処理を行っています。これにより、生地への負担が減り、コットン本来の柔らかさや油分が残るため、肌に触れたときの柔らかさや履き心地が非常に良くなります。
また、左綾で織ることで、きれいな綾目が立ち、少し上品な印象が加わります。濃いインディゴブルーの糸やザラ感のある生地の表情が、個性を持ちながらも王道でスタンダードな印象を与えるWASEWオリジナルデニム生地が完成しました。
細部に宿る、WASEWのこだわりと職人技
フライフロントにジッパーを採用しており、ファスナーにはWASEWの刻印が入っています。ボタンはブラス色の無地のドーナツボタンで、フロントポケットやコインポケットはUFOリベットで補強しています。また、コインポケット口の裏にはセルヴィッチを使用しています。
Lee101 を参考にしていますが、あくまでもスタンダードなデニムという思いがあり、ホームベース型のバックポケットを採用しました。バックポケット口は隠しカン止めで補強しています。カン止めのグレーの糸がさりげなく見えるのがポイントです。また、右バックポケットの右側ボトムにピスネームを挟み込んで縫製することで、Tシャツの裾の下あたりにチラリと見えるように工夫しています。
バックヨークはヨーク高、バックポケットにはネイビーのトリプルステでポケットの中の補強布を縫い止めてワーク感を出し、ベルトループの中央盛りなどヴィンテージデニムの仕様もしっかりと取り入れています。ヨークや後ろ股グリは、7.14mm(9ゲージ)。インシームは6.35 mm(8ゲージ)の巻縫い、脇は割り縫いでセルビッチ幅は、7.5mmと少し細く設定しています。
ステッチ糸には芯糸にポリエステルを使用し、綿糸でカバーリングされたコアヤーンを使用しています。デニムと一緒にステッチ糸も経年変化していきますが、綿糸よりも強度があり、長く着用できます。よくある、馴染んできた時に、糸が切れる心配が軽減されます。
さらに、使用するステッチ糸は3色、場所ごとに糸番手を変えるなど、全体で約10種類の糸を使い分けて縫製しています。運針数も箇所ごとにこまかく設定を変えており、奥行きと立体感のあるデニムに仕上がっています。
デニムを作ることの意味
革新的なモノでも、特別なモノでもなく、デニムに関わってきた一人として、好きな気持ちを具現化する。結局、7年間突き詰めたものは、自身の「デニム愛」でした。そんなデニムフリークが作ったデニムを、デニムフリークたちに着用してもらう。そんな想いが、WASEWデニムのゴールなのかもしれません。
"THE DENIM"
WASEWのデニム生地ができるまで